中村哲・澤地久恵(聞き手)『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る――アフガンとの約束』岩波書店、2010

先週から起床してすぐ少しずつ読んだ本。心が落ち着く。言葉が浮いていない。大言壮語ではなく、苦難を地に足の着いたやり方で乗り越えてきた人の話。10歳で亡くなった自分の息子のことを除いて、身内への誉め言葉は言わない古風な人である。最初は日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)から派遣されたということで、JOCSの職員だった知人のことを思い出した。火野葦平が伯父ということで、火野葦平にゆかりのある知人は今回の逝去をどう思っているのだろうかとも思った。アフガン人の誇りやタリバンアルカイダの違い、イラクの人が都会的なのに対してアフガニスタンの人々は良くも悪くも田舎者、近代国家という意味では統一されておらず群雄割拠の状態をどうやって統治できるのか、アメリカも日本も理解していない。自衛隊の海外派遣に国会で反対意見を述べた中村氏に発言の取り消しを求めた自民党議員や、なぜペシャワール会の若手職員の伊藤氏が襲撃され命を落としたのかと問う公明党議員を、澤地氏は悪意が感じられるという。水を得て食物の自給が可能になることを水路工事で裨益した人たちが「解放」というのは、机上の計算で「戦争」や「平和」を考えている人からすれば理解の範囲を超えている。昆虫が好きでファーブルを愛読し、クラシック音楽にひと時の安らぎを求めるような人が、医師の守備範囲を超えた土木工事に手を出し、人びとの信頼を勝ち得ていく道のりは、険しいしだれにでもできるものではないかもしれないが、現代社会における稀有な羅針盤である。