本の紹介

山村淳平・陳天璽『移民がやってきた――アジアの少数民族、日本での物語』現代人文社、2019

無国籍ネットワークを主宰する陳天璽氏と日本で移民や難民の医療に携わり、彼らの声を外国人労働者弁護団のウェブサイトで紹介する医師・山村淳平氏が開いた連続セミナーの記録。日本における彼らの困難と希望が平易な言葉で語られている。内容についてくわしくは出版社のホームページを参照。http://www.genjin.jp/book/b472815.html 

本書で紹介されているベトナム人シスターが働く群馬県の「あかつき村」という施設は、精神を患ったベトナム人などが暮らす施設で、以前ETV特集「佐藤さんとサンくん~難民と歩む あかつきの村」(2018.11.6)でも取り上げられたことがある。

 

横井秀信『異端の被爆者――22度のがんを生き抜く男』新潮社、2019

『原爆体験と戦後日本』(岩波書店、2015)の著者直野章子氏がどこかで紹介していた本。表題通り確かに異端の人。農業を学び町おこしに関わり、トラブルから退職して西武グループ企業を渡り歩く。ワインやチーズにくわしく、波乱万丈の人生と書くと型にはまり切った紹介文になるが、他にうまい言葉が見つからない。亡くなった同級生のうち、丸岡文麿は京都で被爆体験を語っていた人。原邦彦は原民喜の甥。新潮社や文藝春秋という右翼系出版社は、”こんな出版社つぶれてしまえ”と思いたくなるような本や雑誌記事(嫌韓関係はその代表例)を出すこともあるが、時々は良い本を出すこともある。

 

中村哲『辺境で診る 辺境から見る』石風社、2003

「日本は情報の遅れに煮え湯を飲まされたが、決して情報戦に負けたのではない。情報戦なるものは所詮、宣伝上手の化し合いであって、虚構が事実を制することである。こんなものはいずれ破綻する。問題の本質は、戦争加担への断固たる拒否を、真の平和主義に依って表明しなかったことになる(それは、現実的に可能であった)。日本は、欧米に屈せざるを得ない自己の体質に敗北したのである」(38)

 

中村哲『医者、用水路を拓く――アフガンの大地から世界の虚構に挑む』石風社、2007

途切れ途切れに読んでいたのをようやく読了。中村氏の国会参考人発言の際、野次を飛ばし、嘲笑や罵声をあびせたのが鈴木宗男だというから(37)、鈴木はやはりいかがわしい奴だとあらためて思った。

 

中村氏と一緒に働いていた人たちの描写。「こんな状況下では人は寡黙になる。悲壮な決意表明や勇ましい会話はなかったと思う。彼らの行動そのものが、万の言葉よりも雄弁であった」(45)

 

対して、こんな反応もあったという。「私が敢然と食糧配給に携わった職員たちについて誇らしげに述べると、意外な質問に出くわした。/「『一チームが全滅しても敢行する』というのは軍隊の論理ではありませんか」/そうかも知れぬ。だが、ここに平和を唱える動きの弱さがあるような気がした」(48)

 

国際貢献や協力に絡んでありがちな話。「PMS病院で重きをなしていた医師たちの少なからぬ者が、JICA(日本国際協力事業団)で十倍以上の給与で雇われるという、笑えぬ話もあった」(58)

 

中村氏が困難に立ち向かってきた心理。「理不尽に肉親を殺された者が復習に走るが如く、不条理に一矢報いることを改めて誓った」(78)。私憤を公憤に昇華するとでもいうのだろうか、屈しない心を持った人だとあらためて思う。