本の紹介

中村隆之『野蛮の言説――差別と排除の精神史』春陽堂、2020年

大雑把に読んだだけだが、西洋大航海時代から始まって、現代の相模原障害者殺傷事件へと至る過程を、人種主義や優生思想を経由しながら「野蛮の言説」の系譜で読み解くという、思想史の手法に則った啓蒙書。15回と1学期の講義を想定して組み立てられており、西洋起源の他者支配の言説の系譜が見通しよくコンパクトに紹介され、参考文献も豊富である(巻末でもさらに補強されている)。

詳細については同書を参照してほしい。その上で、恣意的に印象に残った記述をあげると、たとえばダーウィニスムと社会進化論は明快に切り離せるものではなく、後者はある種前者の論理的必然として導き出されたものであること、またコンラッドの『闇の奥』を批判的に読むアーレントが、ミイラ取りがミイラになると言わんばかりの「野蛮言説」の枠組みをなぞってしまっているのではないか、など、微妙で、どちらが差別でどちらが差別反対へと向かうのか、分岐点の見極めを慎重にたどらなければならないと主張している。ヘイトスピーチが単に民族・人種差別を引き起こしているだけではなく、障害者差別と地続きであることを示して締めくくっているのは示唆的である。

あえて言えば、本書は骨格を描くことが主題であり、詳細については詰めるべき点が残されているように見受けられるし、より繊細で実証的な論証が必要と思われる個所が含まれている。それでも、コンゴにおけるベルギーの大虐殺(20世紀初頭で、1000万人以上)が多くの人に知られていない(私もこの本を読むまでは無知だった)事実。その現状を啓発するために本書が世に送り出された意義は小さくないだろう。簡便な議論と読書案内として便利かつ有益である。