本の紹介

清水展・飯嶋秀治編『自前の思想――時代と社会に応答するフィールドワーク』京都大学学術出版会、2020

 

最初は研究上の必要性から手に取ってその後しばらく放置していたが、『文化人類学』86(2)、2021、の書評を読み、再び読み始めた。一気に読了。「応答の人類学」プロジェクトに参加していた文化人類学者による執筆で、中に1人だけ取り上げるのに値するのか疑問な人物も含まれていたものの、他の人選については納得。中でも私が興味深く読んだのが、香月洋一郎による宮本常一論と青木恵理子による波平恵美子論である。2人とも日本をフィールドとして独自の業績を発表した研究者として後学の調査者には参考になる点が多い。特に香月氏の一文は、宮本常一から適度の距離を取り、具体的かつ実感的な宮本常一の著作を過度に抽象化することなくそのエッセンスを抽出した一文で、宮本への敬意が滲み出ていて味わい深い。青木論文も波平の業績に共感を寄せながら飲み込まれることなく、また過不足なく彼女の質的研究の意義を讃えている。ただ、惜しむらくは対象への敬愛が強すぎるあまりか、賞賛に終始し、批判的な考察が見られない論考も混じっていることである。それでも、よい読書案内として役立つ書物であろう。この本に収録されている論考よりも、対象とされている研究者の原著を読む方が得るものが多いかもしれない。(この項書きかけ)