本の紹介

杉田俊介・櫻井信栄編・河村湊編集協力『対抗言論』1、法政大学出版局、2019

2週間ほどかけて少しずつ読んだ本。これも参考になる論文が多く、とてもすべてを紹介している時間がない。以下、目次といくつか目に留まった文章について言及する。

《特集①》日本のマジョリティはいかにしてヘイトに向き合えるのか

 《特集②》歴史認識とヘイト────排外主義なき日本は可能か

  • 歪んだ眼鏡を取り換えろ──「嫌韓」の歴史的起源を考える 【加藤直樹
  • 戦後史の中の「押しつけ憲法論」──そこに見られる民主主義の危うさ 【賀茂道子】
  • 朝鮮人から見える沖縄の加害とその克服の歴史 【呉世宗】

朝鮮人も使いよう」(179)という沖縄人による朝鮮人蔑視は、沖縄/ヤマトの二者関係だけでは論じられない重層性を浮かび上がらせる。

  •  われわれの憎悪とは──「一四〇字の世界」によるカタストロフィと沈黙のパンデミック 【石原真衣】

 

  • アイヌのこと、人間のこと、ほんの少しだけ 【川口好美】

 

オバマ効果」(210)について肯定的に評価しているが、これはかつて秋葉氏が提唱したおめでたい「オバマジョリティ」とどこが違うのか? オバマ発言以前に社会意識の変化があるのではないか(直野章子氏が秋葉氏を批判していた一文も記憶にあるのだが、すぐには思い出せない)

 「だったらあんたが書いてくれ」と言わないために 【康潤伊】

 《特集③》移民・難民/女性/LGBT────共にあることの可能性

  • 不寛容の泥沼から解放されるために──雨宮処凜氏インタビュー 【聞き手】杉田俊介
  • フェミニズムと「ヘイト男性」を結ぶ──「生きづらさを生き延びるための思想」に向けて 【貴戸理恵

貴戸氏にとって上野千鶴子氏はメンターなのであろうが、『あいちトリエンナーレ「展示中止」事件』所収の北原氏の論考(吉田隆之『芸術祭と地域づくり――“祭り”の受容から自発・協働による固有資源化へ』水曜社、2019、に関する2020.4.12の追記参照)を見ると、朴氏を擁護する上野氏はフェミニストとしては危うい側面があり、ねじれた関係。

  • 黄色いベスト運動──あるいは二一世紀における多数派の民衆と政治 【大中一彌
  •  収容所なき社会と移民・難民の主体性 【高橋若木

 

  • やわらかな「棘」と、「正しさ」の震え 【温又柔】

「あるある」話の典型。マジョリティの差別意識にあふれた会話(しかも親が子をたしなめない)を咎めたマイノリティが、なぜ気まずい思いを抱かなければならないのか。親が彼女の言葉を引き取って誤ったとしても、その思いは解消されるわけではない。それでもなお自分の「正しさ」を疑い、言葉を模索する作家。

  •  LGBTと日本のマジョリティ──遠藤まめた氏インタビュー 【聞き手】杉田俊介

 

  • NOT ALONE CAFE TOKYOの実践から──ヘイトでなく安全な場を 【生島嗣+植田祐介+潟見陽+ルーアン
  • 反ヘイトを考えるためのブックリスト42 【本誌編集委員&スタッフ+ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会】

秋葉氏の論考については批判しなければならない点があると感じるが、それ以外の論文やエッセイなどについては読みごたえがあった。お買い得。2号以降にも期待したい。